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広島高等裁判所 昭和28年(う)70号 判決 1953年9月15日

主文

原判決中被告人吉田治平、同加太恂、同原久夫に関する部分を破棄する。被告人吉田治平を懲役弐年に、被告人加田恂、同原久夫を夫々懲役拾月に処する。

原審に於ける訴訟費用中

証人賀屋年明、同山手光、同原田二郎、同秋山福一、同福田稜威夫、同三谷静夫、同丹羽諦順、同坂田修一、同台喜久男、同寺奧德三郎、同山崎信登、同久米通昭、同前保照二、同田中寿に支給した分は被告人吉田治平の負担とし

証人横山重三、同岸鉄夫、同丹道勤、同岡崎一彦、同田中孝、同可部田光則、同青木一、同中田義正、同岡本沐、同伏田忠司、同河本一郎に支給した分は被告人吉田治平、同加太恂、同原久夫の連帯負担とし

証人鈴岡教宏、同豊本末雄及国選弁護人高橋武夫に支給した分は被告人吉田治平と原審相被告人小笠原健作との連帯負担とし国選弁護人椢原隆一に支給した分は被告人加太恂の負担とし

国選弁護人小城戸良三に支給した分は被告人原久夫の負担とし

当審に於ける訴訟費用は被告人加太恂の負担とする。

被告人小笠原健作に対する検事の本件控訴は之を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は本件記録編綴の被告人吉田治平並同被告人の弁護人高橋式夫、椢原隆一、及被告人加太恂並同被告人の弁護人高橋武夫、被告人原久夫の弁護人椢原隆一の各提出に係る控訴趣意書、及検事合志喜生提出の控訴趣意書に記載してある通りであるから茲に之を引用する。之に対する当裁判所の判断は次の通りである。

被告人吉田治平の論旨第一点、同被告人に関する高橋弁護人の論旨第一点(住居侵入の点の事実誤認)に付

併し原判決に挙示してある証拠に依れば所論の様に退去命令が出された以後労務者側から新たに本件交渉当日の日当の支払要求が提出され市側に於ても一応之に付て協議したことがあることは認められるけれども市側に於ては直ちに右要求を拒否して交渉を打切り先の退去命令の履行を求めたことを認めることが出来、其の後も尚交渉が継続されて居るかの様な外観を呈して居たのは被告人吉田等が右退去命令に従はないで遂に市側が被告人吉田等を強制的に市庁舎外に退去せしめる為警察職員の来援を求めるの止むなきに至る迄しつように市側に対して先の要求の承諾を求め続けて居た為であつて、所論の様に日当支払の要求に関し再び交渉が開始せられ市側に依り先の退去命令が撤回せられたものではないことが明らかである。従て被告人吉田等が警察職員に依り強制的に退去せしめられる迄右退去命令に従はなかつたことに付原審が住居侵入罪に該当するものと認定したのは真に相当であつて、記録を精査するも原審の事実認定に誤があるものとは認められない。論旨は理由がない。

椢原弁護人の論旨第一点(住居侵入罪に関する法令適用の誤)に付

併し所論の様に被告人吉田等労務者と広島市との間に行はれた本件交渉が所謂団体交渉と称することが出来るとしても、そもそも団体交渉に於て、労働者側も雇主側も相手方の要求事項に応諾しなければならない義務があるものでないことは勿論、正当な理由がある限り使用者は団体交渉夫自体に応じないことも許されて居るものである。(労働組合法第七条第二号参照)而して原審に於て取調べた証拠に依れば、本件交渉は広島市に於て緊急失業対策事業法に基いて失業対策事業又は公共事業に日々使用して居る所謂自由労働者等が、其の事業主体である広島市に対して「日雇労務者に対する越年資金の交付及年末年始の完全就労実施」等の要求に付て行はれたものであつて当日朝九時頃から約千名位の自由労働者が市庁舎内の廊下、屋上等に座り込んで不穏な情勢を示し広島市の地方公共団体としての事務執行にも妨げとなる状態であつて、午後四時半頃広島市代表者から右要求に対する回答を行つたのに対し、労務者側は之を不満として自己の要求貫徹の為尚も之が交渉を継続せんとしたが、広島市としては前記の様な失業対策事業であることの性質上、独断を以て右回答以上の要求に付諾否を決定することが出来ないものであるのみならず前記回答以上の要求には応ずることが出来ないものであるとし、且既に市吏員の退庁時刻である午後五時を経過して居る上、退庁時刻後、尚不穏な形勢にある約千名の労務者が市庁舍を占拠して居るままの状態にしておくことは、庁舎管理の責任を全うすることが出来ないとして、午後五時十五分頃市代表者から当日の交渉は之を打切ると共に、午後五時二十分迄に全労務者が市庁舎外に退去する様要求したが、被告人吉田等其の他の労務者は之に応ぜず、遂に午後九時頃警察職員の手に依り強制的に退去せしめられる迄、市庁舎内を占拠して居たものであることが認められ之等の事情を綜合し、其の時間、場所、労務者側の人数、態度等を勘案すれば、広島市が午後五時十五分頃に至つて交渉を打切り、市庁舎外えの退去を求めたことは、真にやむを得ない正当な理由があるものといはざるを得ず、従て被告人吉田等其の他の労務者としては一応広島市の右要求に応じ市庁舎外に退去すべき義務があつたものといふべく、之に応ぜずして強いて午後九時頃迄市庁舎内から退去しなかつたことは、最早正当な団体交渉の為の行為とは認められず、之に対して原判決が刑法第百三十条の住居侵入罪に該当するものとしたことは正当であつて、何等所論の様な憲法の条規に違背する点はない。又記録を精査するも被告人吉田の右所為が、所論の様に千余名の労務者の意思を無視し得ない為にやむことを得ざるに出でた結果であると認めるに足る証左も存しない。故に原判決には此の点に関し何等罪とならない事実に対し之を有罪とした違法はなく、論旨は総て採用出来ない。

被告人吉田治平の論旨第二点、被告人加太恂の論旨、高橋弁護人の被告人吉田治平に関する論旨第三点、同弁護人の被告人加太恂に関する論旨、椢原弁護人の被告人吉田治平、同原久夫に関する論旨第二点(各暴力行為等処罰に関する法律違反の点の事実誤認)に付

原判決に原判示第二の事実を認定した証拠として挙示してあるところを綜合すると、原判示事実を認めるに十分であつて、暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項に所謂数人共同してとは数人が意思を連絡し相協力して自己の犯罪を実現する意思を以て犯罪を行うことをいい正犯者各自の行為は自己の為にすると同時に他の正犯者の為にも之を行い、又他の正犯者の行為は之を自己の犯罪を実現するに利用するもので、各正犯者は自己の行為に付ては勿論他の正犯者の行為に付ても其の責任を負うものであるところ、本件暴行及器物損壊は約百六十名の集団員に依る法務府特別審査局中国支局に対する示威運動の際行われたもので、原判決挙示の証拠により認められる様に其の際右集団員等が右支局正面玄関車廻しから道路にかけて数回に亘り気勢を挙げつつ旋回した後、右正面玄関に面して道路上に整列し、其の列中の数名の者がポケツト内に所持して居た石を取り出して右玄関ドアーの方向に投げつつ、更に指導者の指導の下に前同様右玄関車廻しから道路にかけて旋回を始め、数回に亘つて旋回する間に被告人加太、原や羅成斗其の他の集団員等が交々所持して居たプラカード、旗竿等で玄関入口ドアーの硝子を叩き破つたり、催涙液入りの瓶を玄関内に投げ入れたりしたものであること、被告人吉田が右示威運動の指揮者の一人で、右現場に在つて種々の指導を行つて居たことが認められ、之等の状況からして被告人加太、原、吉田等や其の他の集団員等が互に意思を通じ相協力して右犯行を行つたものであることを十分認定することができる。而して右の様な状況証拠のみに基いて共同犯行の事実を認定することも何等採証法則に違反するものではない。従て直接右暴行、器物損壊行為の一部を実行した被告人加太、原は勿論、直接右行為の実行に参加しなかつた被告人吉田に於ても右犯行の共同犯行者として、自己の犯行に付てのみならず他の正犯者の犯行に付ても、総ての責任を負わなければならないことは明らかであるから、原判決が被告人吉田、加太、原に対して原判決第二の事実を認定して、暴力行為等処罰に関する法律違反の責任を負わしめたことは正当で、原判決には何等事実誤認其の他所論の様な違法は存しない。論旨は総て理由がない。

検事の論旨第一点(広島市集団行進及集団示威運動に関する条例違反の点に付法令適用の誤)に付

よつて按ずるに原判決は要するに広島市集団行進及集団示威運動に関する条例が要許可の対象を集団行進に付ては道路其の他公共の場所で行う一切の集団行進と規定し、集団示威運動に至つては場所の如何を問わず一切の集団示威運動と規定して、殆ど対象的限定をせずして殆ど総ての集団行進、集団示威運動を対象とし、しかも事前の届出を以て十分であるにも拘らず之を予め公安委員会の許可を受けることを要するものとした点に於て、本来侵すことの出来ない之等表現の自由を一般的に制限し、特に公安委員会の許可を受けた者のみが其の自由を享受することが出来るとしたものであるから、憲法に違反する無効のものであるというにある。

併し集会、集団行進は道路其の他公共の場所で行われる場合に、又集団示威運動は其の性質上場所の如何を問わず、往々にして所謂群衆心理に駆られてややもすれば自由の濫用に陥り、延いては公共の福祉を侵害するところから、本条例は道路其の他公共の場所を使用する公衆の権利を保護する為に之を制限せんとして制定せられたるものであつて従つて集会、集団行進に付ては道路其の他公共の場所で行われる総ての場合を要許可の対象とし、集団示威運動に付ては場所の如何を問わず(但場所の如何を問わないとはいうものの、本条例が前記の様に道路其の他公共の場所を使用する公衆の権利を保護する為のものである以上、道路其の他公共の場所を使用する公衆の権利とは何等関係のない例えば一定の工場内に於て其の工場の勤労者が其の使用者に対して行う集団示威運動の如きは当然本条例の対象とはならないものと解すべきである)要許可の対象としたもので、尚第六条には「この条例の各規定は第一点に定めた集会、集団行進又は集団示威運動以外に集会を行う権利を禁止し、若しくは制限し又は集会政治運動を監督し若しくはプラカード出版物其の他文書、図書、図画を検閲する権限を公安委員会、警察吏員、警察職員又は其の他の市吏員若しくは職員に与えるものと解釈してはならない」第七条には「この条例の各規定は公務員の選挙に関する法律に矛盾し又は選挙運動中に於ける政治集会、若しくは演説の事前の届出を必要ならしめるものと解釈してはならない」と規定して、本条例制定の趣旨目的からして本条例の対象となる集会集団行進、集団示威運動を厳格に限定すべきことを命じ、又本条例施行規則第一条には、本条例の対象から除外されるものとして(一)学生、生徒其の他の遠足、修学旅行、体育競技(二)通常の冠婚、葬祭等慣例による行事(三)学校又は官公庁が主催する行事と規定して居るのであるから、原判決の説示する様に本条例の対象に殆ど限定がないものと断ずることは出来ないのみならず、其の対象が「公共の用に供する街路又は公共建築物及び其の周辺の敷地等に於て行われる集団行進、集団示威運動よりも多少広い範囲で定められて居るからといつて、之を以て直ちに其の対象が公共の福祉の為の必要止むを得ない制限を超えて居るものということは出来ない。又本条例第一条は「許可を受けないで行つてはならない」と規定しては居るけれども、其の第三条には「公安委員会は許可の申請があつたときは周囲の情勢から合理的に判断して其の集会、集団行進又は集団示威運動の実施が公共の安寧を保持する上に直接危害を及ぼすと明らかに認められる場合の外は之を許可しなければならない。」と規定して公安委員会に対して一定の場合以外は必ず集団行進集団示威運動を許可しなければならない義務を課して居る外、前記第六条第七条の規定及其の許可を与える場合に於て参加者が秩序を保持し、公衆を保護する為必要と認める条件を附することが出来る旨の規定(第三条第二項)等其の他本条例の全趣旨から考察すれば、本条例に所謂許可とは、一般的原則的に禁止して居る自由の禁止を例外的に解除して、自由に行う権能を特別に付与するという性質のものではなくして、所論の様に或る事実又は法律関係に付て公の権威を以て其の適否を確定する確認行為と其の確認を求めるための申請を為さしめて之を受理する行為とを併せ有する性質のものと解すべきである。即集団行進、集団示威運動の実施が周囲の情勢から合理的に判断して、公共の安寧を保持する上に直接危害を及ぼすと明らかに認められる場合には其の実施を許可すべきでないことは当然であり、之を許さないことが憲法の精神に違反するものでないことも亦自明の理であるから、右の様な当然許すべからざる場合に該当するものであるか否か、又は右の様な当然許すべからざる場合に該当せず、従て当然其の実施が許される場合であるとしても、群衆心理其の他周囲の状勢上あるいは起ることあるべき公共の危害を予防する為の条件を附する必要があるか否かを、公安委員会をして弁別判定せしめることとし其の為に一応同委員会に対して必要事項と共に其の許可申請を為さしめることとしたものであり、右の様な手続は道路其の他公共の場所を使用する公衆の権利の保護に誤りなからしめる為の一の手段であつて、右の目的以外にみだりに集会其の他一切の表現の自由又は勤労者の団体行動権に干渉し之を制限し様として特に許可という語を使用して居るものでないことは明らかであるもつとも公共の安寧を保持する上に直接危害を及ぼすと明らかに認められない即当然行つて然るべき行進等に付てまでも、一応許可を必要とすることは、何時でも自由に行い得ることにくらべると、其の自由に制限を受けることにはなるが、其の制限は道路其の他公共の場所を使用する公衆の権利を保護する為の一つの手続的のものに過ぎず、公共の福祉の為にやむを得ない制限として認められて然るべきものというべく、又行進、示威運動の実施に付右の様な公安委員会に対する何等かの手続を必要とするという点に於ては本条例の許可制に於ても所謂届出制に於ても、何等の差異があるものではない。而して現下の社会状勢の下に於ては広島市が公安委員会に於て周囲の状勢から合理的に判断した結果、公共の安寧に直接危害を及ぼす集団行進、集団示威運動であると当初から明らかに認めるにも拘らず、一応其の実施の届出さえなされて居る限り、一見之を実施せしめた後、又はその実施に付公安委員が附した条件(右の様な場合には当初から其の条件の守られることを期待出来ない場合があるであろう)に違背して公共の安寧に危害を及ぼした後に至つて、初て適法に之を禁止制限する措置を採ることが出来るものとする所謂届出制(届出制に於ても右の様な場合には当然当初から其の実施を禁止することが出来る旨の規定を設けるとすれば届出制と許可制との間には其の用語に於て「届出」と「許可」との差異があるに止まり、其の実質に於ては何等の差異も存しないこととなるであろう)より一歩進んで右の様な行進又は示威運動に限り当初から其の実施を禁止する必要上、一定の行進、示威運動に付総て所謂公安委員会の許可を受くることを要するとする所謂許可制を採用したことは、公共の福祉の為やむを得ないものというべきである。従つてこれらの点を綜合判断すれば、要するに本条例は其の対象に付ても或る程度の限定をし、其の不許可になすべき場合をも限定明示して居り、必ずしも原判決の説示する様に、本来侵すことの出来ない表現の自由を一般的に無制限に禁止制限し、特に許可を受けたもののみがその自由を享受出来るとするもので、憲法の保障する基本的人権尊重の精神を否定して公共の福祉の為必要やむを得ない限度を逸脱して居るものであるということは出来ない。

もつとも本条例には其の用語に於て正確さを欠き、規定の内容に於て抽象的に過ぎる点がないこともなく、従て許否権を握る広島市公安委員会が具体的問題の処理に関し本条例本来の趣旨目的に違背し基本的人権の制限に付て公共の福祉の為に必要な最小限度を逸脱する虞があるとの一般国民の不安もなく理由がないものとすることは出来ないが、本条例第三条第五項には公安委員会が不許可の処分をしたときは、其の旨を詳細な理由をつけて速かに市議会に報告すべきことを命じて、不許可理由の公表批判の道を開き、右の様な違法な処分の行われることを防止せんとする措置を講じて居るのみならず、右は本条例運用の問題であつて、之を以て未だ直ちに本条例の規定自体が憲法に違反して居ることの理由となすことは出来ない。

従て原判決が本条例を憲法に違反する無効のものなりとして被告人吉田に対する本条例違反の訴因に付無罪の言渡をしたのは、法令の解釈適用を誤つたものであつて、右違法は被告人吉田に対する原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、此の点で原判決中被告人吉田に関する部分は破棄を免れない。論旨は理由がある。

検事の論旨第二点、被告人吉田治平の弁護人高橋武夫の論旨第二点、被告人吉田治平同原久夫の弁護人椢原隆一の論旨第三点(各量刑不当)に付

記録に依り諸般の事情を調査し、被告人吉田、加太、原等が百数十名の者と共に自己の有する思想と反対の立場にあることを理由として法務府特別審査局中国支部に押掛け多衆の威力を示し多衆と共同して右支局の職員に暴行を為し、同支局玄関硝石扉の硝石を破壊し、庁舎内に催涙液入の瓶を投げ入れる等の犯行に及んだ其の態様当時の社会情勢等を考量し又被告人吉田は右犯行の際右集団を右場所迄誘導する等指導的役割を演じて居る点等を勘案し、検事及弁護人の双方所論の点を検討するとき、被告人吉田、原に対する原審の量刑は、弁護人所論の様に不当に重すぎるものとは認められず却て検事所論の様に不当に軽すぎるものというべく、被告人加太に対する原審の量刑の亦検事所論の様に不当に軽すぎるものといわざるを得ないので、右被告人吉田、原に対する弁護人の各論旨は理由がないが、同被告人等及被告人加太に対する検事の論旨は何れも理由があるものというべきである。併し被告人小笠原は自由労働者の労働条件の改善に付代表者の一人として市役所の代表者と交渉するに当り、市役所側から交渉打切りを告げられ市庁舎外に退去を求められたその正当な要求に従わなかつたというにあつて、其の所為はもとより違法ではあるけれども情状酌量すべき点もあるので、原審の同被告人に対する量刑は必ずしも検事所論の様に不当に軽すぎるとは認められないから、検事の同被告人に対する論旨は採用できない。

以上の理由に依り被告人小笠原を除く其の余の各被告人の本件控訴及検事の被告人小笠原に対する本件控訴は何れも理由がないが、検事の被告人小笠原を除く其の余の被告人等に対する本件控訴は何れも理由があるので、原判決中被告人吉田治平、同加太恂、同原久夫に関する部分は刑事訴訟法第三九七条に従い之を破棄し、同法第四〇〇条但書により当裁判所に於て次の通り自判することとし、被告人小笠原健作に対する検事の本件控訴は同法第三九六条により之を棄却すべきものとする。

被告人吉田治平に関する罪となるべき事実は原判決確定の第一、第二の事実の外

同被告人は昭和二十七年三月一日午後四時過頃広島市小町白神神社道路上に於て、集団行進をして来た朝鮮人百二十名位と広島自由労働者組合員四十名位が合流するや広島市公安委員会の許可を受けて居ないにも拘らず其の合流して集団を指導して同所から同市大手町、革屋町、播磨屋町、平田屋町、八丁堀十字路、涼川町、上涼川町等を経て鉄砲町広島女学院中学校南側道路に至る約二粁の間を「弾圧法規制定反対、朝鮮人強制送還反対」等を記載したプラカードを押し立てながら集団行進し、其の間広島市西警察署、中国新聞社、法務府特別審査局中国支局前等に於てワツシヨイ、ワツシヨイと気勢を挙げながら蛇行又は旋回行進をして集団示威運動を為し、以て広島市公安委員会の許可を受けないで行われた集団行進及集団示威運動の指導をしたものである。

≪証拠の標目及び法令の適用省略≫

右の理由に依り主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 柳田躬則 裁判官 高橋英明 石貝勝四)

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